免疫を調整する生薬のいろいろ|漢方のはなし
4.身体を病気から守る衛気(えき)
正気(せいき)の不足と邪気(じゃき)の強さ
中医学では身体を構成し生命活動を維持するのに必要な物質と人体の抗病能力を正気(せいき)と呼んでいます。また、この正気(せいき)のバランスを乱し、病気にしてしまうのを邪気(じゃき)と呼びます。このため、病気になる原因には、邪気(じゃき)が強すぎる場合と、正気(せいき)が弱すぎる場合の二つのケースが考えられます。
したがって中医学で病気を治療するには・・・・・ まずその病気の原因が ●正気(せいき)の不足(抵抗力の低下)にあるのか、 ●邪気(じゃき)(病原菌など)が強すぎて引き起こされたのか、 判断する必要があります。
衛気(えき)の根源は腎(じん)にある
気(せいき)の中でも、病気から身体を守る働きのある気を『衛気(えき)』と言います。 衛気(えき)は、いくつかの段階を経て熟成され、邪気(じゃき)と戦い、私たちを病気に ならないようにしたり、病気を治すことができるようになります。
腎(じん)には精(せい)と呼ばれる生命活動の根源となる物質が蓄えられています。この精(せい)は両親から受け継いだもので、生長、発育、生殖、老化などに関与しています。この精(せい)が基礎となって原始的な衛気(えき)が作られます。したがって、生まれつき病弱であったり、過労や高齢のため体力が低下すると、衛気(えき)の材料である腎精(じんせい)の不足から衛気(えき)を作ることができなくなります。
中医学でいう腎(腎)には腎臓、副腎のほか、骨、骨髄、胸腺、脳下垂体などの働きも含まれており、現代医学ではこれらは免疫細胞の生成や調節と密接な関係があるとしています。
足腰がだるい、骨が弱い、精力減退、排尿困難などの症状が見られる場合は、腎を強化する補腎薬(ほじんやく)と呼ばれる漢方薬で、腎精(じんせい)を補う必要があります。
衛気(えき)は脾(ひ)(胃腸)から栄養を受ける
現代医学でも脾臓は免疫と密接な関係があると考えられています。中医学でいう脾(ひ)は脾臓のほかに胃腸の働きも含まれています。腎(じん)で生まれた原始的な衛気(えき)は脾(ひ)(胃腸)から栄養を受け取ることにより、強い衛気(えき)になることが出来ます。
食欲不振、食後お腹が脹る、食後眠くなる、軟便、手足に力が入らないという方は脾(ひ)の働きが低下している可能性があります。また、食事を充分に摂ることが出来ないと病気によって破壊された組織をなかなか修復することができないので、病気や傷が治りにくくなります。
中医学でいう気(き)にはエネルギー、機能という意味があり、脾(ひ)の機能が低下した状態を脾気虚(ひききょ)と言います。
多くの邪気(じゃき)は皮膚や粘膜から浸入する
栄養に満ち鍛えられた衛気(えき)は、いよいよ邪気(じゃき)と戦うべく全身に運ばれます。多くの邪気(じゃき)は皮膚から、あるいは鼻などの粘膜から身体の中に浸入してきますから、衛気(えき)はこのあたりを中心に警備する必要があります。
肺(はい)には宣発粛降(せんぱつしゅくこう)という、気(き)を全身に運ぶ働きがあります。また、皮膚や鼻と密接な関係があり、衛気(えき)をコントロールする指揮官の役目をになっています。
この働きが低下すると、汗をかきやすい、カゼをひきやすい、息切れ、肌が弱いなどの症状が出てきます。逆に言えばこれらの症状がある場合は、肺(はい)の機能が低下しています。このような状態を肺気虚(はいききょ)と呼びます。
脾気虚(ひききょ)や肺気虚(はいききょ)などには、気(き)を補う補気薬(ほきやく)と呼ばれる漢方薬で治療します。
その他の免疫システム
●血液は栄養や免疫物質を全身に運ぶ
血液には豊富な栄養を全身に運ぶほか、老廃物を運び去り、身体の中をきれいに掃除する働きがあります。もし、血液が不足したり、流れが滞ると病気にかかりやすくなったり、病気が治りにくくなったりします。
●肝(かん)は免疫を調整する
中医学では、肝(かん)には全身の臓腑、器官の働きをスムーズにする疎泄(そせつ)と呼ばれる働きがあり、これが失調すると免疫力の低下、あるいは異常な免疫亢進などの現象が現れやすくなります。
●適材適所、邪気(じゃき)の種類に合わせて「武器」を選ぶ
免疫反応の過程で邪気(じゃき)種類によっては、発熱、疼痛、脹れなどの反応が起きることがあります。このような場合、状況に合わせて適当な「武器」=薬剤を選び攻撃する必要があります。