男性を強くする生薬のいろいろ|漢方のはなし

9.鹿茸(ろくじょう)

鹿の柔らかい角、鹿茸(ろくじょう)は強壮強精剤の王様である

補腎薬(ほじんやく)には色々あります。大きく分けると鹿茸(ろくじょう)、海狗腎(かいくじん)、蛤カイ(ごうかい)、海馬(かいば)などの動物性の薬と淫羊カク(いんようかく)、巴戟天(はげきてん)、杜仲(とちゅう)などの植物性の薬、そして、陽起石(ようきせき)(アクチライトという石)などの鉱物性の薬です。

例えば、足腰がだるく、痛みを感じ、力がなく、頻尿、インポテンツ、勃起不全、早漏、不妊、顔色もすぐれず、そして冷えを感じ、舌は白っぽく、少し腫れぼったくなっていればエネルギー不足の「冷え=腎陽虚(じんようきょ)型」です。この腎陽虚(じんようきょ)を補うのに一番いいのが鹿茸(ろくじょう)で、中国で一番古い薬物書「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」にすでにその働きは詳しく書かれ、現在の研究でも強壮強精剤の王様的存在です。

鹿茸(ろくじょう)はシカ科のシカ、アカジカの硬くなる前の柔らかい角を乾燥させたものです。角は平均して3日で1cmと、すぐに大きく成長し、その成長振りから精力の強さが想像されたのでしょう。また「本草綱目(ほんぞうこうもく)」という明の時代の薬物書に「鹿の性質は淫乱である。一匹のオスは常に数匹のメスと交わる」と書かれているほどです。

有効成分はパントクリン 気力を高め、体力を強める

唐の時代の医学書「千金方(せんきんほう)」では「人体を強壮にして老いさせず、男女の交わりに疲れることもなく、気力も体力も衰えないようにするにはビ角(びかく)(トナカイや鹿の角、特に)鹿茸(ろくじょう)に勝るものはない」と言い切っています。

鹿茸(ろくじょう)の有効成分パントクリンをマウスに大量に与えると血圧を下げ、心拍数を少なくし、末梢神経を拡張しますが、中くらいの量では逆に心臓の動きを活発化させ、心拍を速め、血液の流れる量を増やしますので、冷え性、低血圧気味で心臓病の方には効果があります。

体の抵抗力、免疫力を高める

鹿茸(ろくじょう)をラットやウサギに与えると体重が増え、ウサギでは赤血球の増加がみられます。しかし、マウスの実験では男性ホルモンの一つであるテストテロンの分泌はむしろ下げる働きがみられました。

また、肝臓におけるタンパク質を合成する能力を促進し、老化や癌の原因物質として恐れられている「活性酸素」を除去し、体の中に入ってきた異物を退治するマクロファージの働きを活性化することなども分かっています。これらのことから鹿茸(ろくじょう)は、体の抵抗力、免疫力を強め、体力をつける働きがあることが分かります。

さらに傷口の再生を速めたり、潰瘍の治療に効果があることも実験で明らかにされています。これらのことは中国の病院では経験的に昔から確かめられています。

ただ、鹿茸(ろくじょう)は単独で使われることは少なく、症状に応じて、熟地黄(じゅくじおう)(ゴマノハグサ科ジオウの根を酒で蒸して熟成したもの)、巴戟天(はげきてん)、淫羊カク(いんようかく)、山薬(さんやく)(山芋を乾燥したもの)、黄耆(おうぎ)(マメ科キバナオウギの根)、当帰(とうき)(セリ科トウキの根)などの植物性の生薬(しょうやく)と組み合わせて、症状に応じて使い分けられています。日本では参茸補血丸(さんじょうほけつがん)と双料参茸丸(そうりょうさんじょうがん)が有名で、鹿茸(ろくじょう)と人参(にんじん)という補う薬としては「最強のペア」が配合された強壮強制薬です。

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