男性を強くする生薬のいろいろ|漢方のはなし

10.海狗腎(かいくじん)・鹿鞭(ろくべん)・広狗鞭(こうくべん)

絶倫のオットセイノシンボル。憧れの「ハーレム」にあやかりたい?

海狗腎(かいくじん)はアシカ科のオットセイ、またはアザラシ科のゴマファアザラシのペニスです。しかも、睾丸も一緒にして乾燥したものです。古い薬物書に書かれている海狗腎(かいくじん)の本当の「持ち主」はどうもまちまちのようですが、多くはゴマファアザラシです。体長は1.3~1.5mで、生薬(しょうやく)に使われているものは30cm前後の長さです。

中医学の何でも薬にしてしまう応用力には私達も驚かざるを得ません。北の海の島や大きな氷の上に数十頭のメスを連れて、一夫多妻、文字通りハーレム「君臨」しているオットセイやアザラシのオスを見て、古来多くの男性が憧れてきたのです。

日本名のオットセイという名前は膃肭獣(おっとじゅう)の臍(へそ)(ペニス)から来たもので、生薬(しょうやく)の名前が動物名のもとになっているのです。東北・津軽藩の秘薬「一粒金丹」に膃肭臍(おっとせい)(オットセイのペニス)ははいっていました。

インポテンツには、人参、鹿茸などと至宝三鞭丸や海馬補腎丸を

海狗腎(かいくじん)は中医学では腎(じん)を温め、その機能を盛んにし、腎(じん)のエネルギー不足を補い、骨や髄の働きを活発化する「温腎壮陽(おんじんそうよう)・補精益髄(ほせいえきずい)」の働きがあり、気力、体力の衰えた、まさに「腎陽虚(じんようきょ)」の人にはなくてならない薬とも言えるのです。インポテンツ、勃起不全、なかなか治らない足腰の冷えには、そのまま煎じて服むか、朝鮮人参(ちょうせんにんじん)、鹿茸(ろくじょう)、陽起石(ようきせき)(アクチノライトという石)などと一緒に用います。

日本に輸入されている中成薬(中国で作られた漢方薬)で海狗腎(かいくじん)が入っているものとして有名なのが、至宝三鞭丸(しほうさんべんがん)と海馬補腎丸(かいまほじんがん)です。この三鞭(さんべん)とは海狗腎(かいくじん)、鹿鞭(ろくべん)、広狗鞭(こうくべん)の三つのペニスと睾丸を指しています。海狗腎(かいくじん)以外の鹿鞭(ろくべん)、広狗鞭(こうくべん)とは一体何でしょうか。想像できるでしょうか。

オットセイ、鹿、犬のペニスと睾丸で気力・体力がモリモリに

海狗腎(かいくじん)はオットセイのペニスと睾丸を乾燥させたものですが、二つ目の鹿鞭(ろくべん)とは鹿のそれです。三つ目の広狗鞭(こうくべん)とは中国広東省の犬のそれです。広は広州(広東省)をさし、狗は犬の意味です。

「犬が薬に」と思われますかもしれませんが、広州に行かれた方はよくご存知のはずです。市場では食用の犬が売られています。「食は広州にあり」といわれるように、広東料理は美味な上に何でも食材にすることでよく知られ、「広州人は四つ足のものならば何でも食べる。食べないのは机とパンダだけだ」という冗談のような本当のような話があります。昔は猿の脳味噌料理が名物の一つでしたが、これもパンダと同様に禁止されています。広州料理で一番よく知られているのが皮だけを食べる贅沢な子豚の丸焼きです。

このほか、羊腎(ようじん)という羊の睾丸を乾燥したものを海狗腎(かいくじん)の代わりの生薬(しょうやく)として使うこともあります。

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